おしらせ

2021-03-04 19:30:00

咲柔館コラム57 科学の研究から学んだ「守破離」

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 私の中学校には柔道部がありませんでした。柔道は町道場で続け、大会は担任の先生が引率をしてくださいました。おいそがしい中、毎回試合に来てくださった担任の先生に、今でも心から感謝しています。

 柔道部はなかったものの「部活には必ず入らなくてはいけない」という決まりがありました。そこで私が選んだのは「科学部」です。小学校時代から理科が好きでした。ただ、入部した動機は「ほとんど活動を行っていないので楽そう」という安易なものです。顧問の先生に入部理由を聞かれ、「顕微鏡で微生物を見たい」と適当に答えました。

 

 

 

  

 実際に、ほとんど活動はありませんでした。たまに顧問の先生から「コケとタニシだらけの水槽掃除」をお願いされたくらいです。ところが、2年生になってから、顧問の先生が変わり、活動方針が一変します。新顧問の先生は全部員を理科室に集めてこうおっしゃいました。「ほとんど活動を行っていないようだね。でも、これからは違うよ。本気で活動する気持ちがある者のみ科学部に残りなさい。」私は戸惑いながら、こう思いました。「本気の科学部の活動って何するの?」

 

 

 

 

 結局、私の学年は全員が科学部に残り、放課後は理科室に直行する日々が始まったのです。顧問の先生は、まず私たちに1枚の紙を渡しました。それは「スタンプラリー」のような表でした。実験や研究をする上で必要な基礎知識、基本技術が20項目くらいあり、先生にレクチャーを受けた後、チェック試験が行われます。先生から合格をもらうと「スタンプラリー」にハンコが1つ押され、全部埋まった人のみ「自由研究」ができるというシステムです。「試験管・ビーカーの正しい洗い方」「顕微鏡で観察しながらスケッチする方法」「写真撮影と現像の仕方」「危険な薬物の扱い方」など、細かい部分まで丁寧に教えていただきました。先生のチェックは厳しかったのですが、その分、全項目が埋まった時の達成感はとても大きかったです。自分が「科学者の卵」になったような気持ちになりました。

 

 

 

 

 全部員が自由研究の許可をいただき、私たちの学年は、理科の授業で習った「結晶」を作る研究に着手しました。「スタンプラリー」で身につけた基礎知識、基本技術を活用しながら、みんなで試行錯誤を繰り返す日々は本当に楽しかったです。これこそが「本気の科学部の活動なんだ」とその時気づきました。そして、ある日結晶を大きくする名案が思いつき、試してみた結果、美しくて大きな「塩」「硫酸銅」「ミョウバン」の結晶ができた時の感動は格別でした。しかも、その研究内容をまとめ、市の理科研究展覧会に出展した所、なんと1位にあたる「特賞」を受賞したのです。適当な気持ちで入部した2年後に、こんな結果が待っているとは夢にも思いませんでした。1人の先生との出会いが、人生観を変えることもありますね。素晴らしい先生との出会いに感謝しています。

 この「スタンプラリー」方式は、ぜひ咲柔館でも活かしたいです。自分の習熟度を確認しながら、少しずつ自信をつけられるとても良い方法だと思います。

 

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以前、「初心者用」に作ってみたものです

 

 

 

 

 科学部の活動を通して、私が1番学んだことは、「基本を徹底して身につけること」の大切さです。昔から武道や芸道に「守破離」という言葉があるように、まずは基本を忠実に守り、基本をものにしてこそ、新たな発想が生まれ、更なる発展を遂げることができます。柔道衣をきれいにたたむ、礼を丁寧にする、受身を正確に行う、補強トレーニングを道場の端から端までやる、打ち込みを黙々と繰り返す、そういった基本を地道に続けた人だけが、自分だけの「技」や「生き方」を見出せるのかもしれませんね。

 柔道は「基本」が第一です。子どもも大人も基本を繰り返し、柔道場で人生の土台を作っていきましょう。

 

 

 

 

※「note」より転載
https://note.com/shojukan/n/nc970010ba0af