おしらせ
2021-10-20 18:46:00
咲柔館コラム116 私の得意技③「谷落(たにおとし)」~漫画『帯をギュッとね!』から学んだ技~
私の得意技シリーズ最後は、「谷落」です。この技は、高校に入るまで見たことも聞いたこともありませんでした。この技を初めて教えてくださったのは、2学年上の先輩です。先輩がたまに乱取りで使っており、「面白い技だなあ」と興味を持つようになりました。ただ、先輩の真似をしてやってみたものの、なかなか上手くできず、高校1年生の時点では練習を止めてしまいました。
本気で「谷落」に取り組み始めたのは、高校2年生になってからです。高校時代に愛読していた柔道漫画『帯をギュッとね!』(河合克敏/小学館)に大きな影響を受けました。漫画に登場する高校生たちは、日本一を目指して3つの強化項目を立てます(22巻)。その1つが「裏技」です。提案者である斉藤は、仲間にこう訴えかけます。「各自があと半年間の間に、必ず何か1つ新しい技を身につける!そして、それをいざという時の隠し玉として使うっ!」「たとえ一本が取れなくてもいい、だが!その技を出したら必ず有効でも効果でもいいから、ポイントを稼げるというような技がいい。」
日本一になれるか否かで衝突し、一度は分裂した仲間たちが、「本気の“楽しい柔道”」で日本一を目指そうと再び動きだす22巻が大好きです。私は「裏技」という言葉に憧れ、「谷落」の練習を再開しました。
『帯ギュ』で「谷落」が登場するのは、全国大会の団体戦決勝です(29巻)。次鋒で登場した主将の杉は、相手の小外刈で立て続けに技あり、有効をとられます。もう後がありません。そこで、杉は起死回生の裏技「谷落」をかけ、この技が見事にはまって技あり。そのまま上四方固に移行して一本勝ちを収めます。
私はこのシーンのコマを何度も見返して、技の研究を重ねました。そして、「谷落を極め、ここ一番で絶対に決める」と信じ、全国大会予選までの約2ヶ月間は、毎日稽古後に左右50本ずつ、合計100本の反復練習を繰り返しました。
そして、春の選手権(全国大会)団体戦栃木県予選決勝、ついに私の「谷落」が決まります。相手の動きを見ながら、虎視眈々とチャンスを待ちました。そして、この試合中にとても不思議な体験をします。自分の内側から「今だ!!」という声が聞こえたのです。これは監督や仲間の声ではありません。心の声なのか、神様の声なのか、わかりません。でも、その声が聞こえた瞬間、無心で谷落をかけていました。相手は横倒しに倒れ、「有効」という審判の声が聞こえました。ただ、その後の記憶が全くないのです。すぐに横四方固に移行するものの、すぐに逃げられ、亀になった相手を三角絞の形でひっくり返し、気づいたら腕ひしぎ十字固に入っていました。「関節決まっているぞ!!」という大きな声(この声はチームメイト)で我に返り、腕をきめて一本。この谷落からの一連の流れは、試合後にビデオで観て分かりました。いわゆる「ゾーン」状態だったのかもしれません。
漫画で覚えた技が、現実の試合で決まった瞬間、その後、チーム一丸となって戦い優勝を決めた瞬間、あの時の感動は、一生の宝物です。
ちなみに、この時勝った選手には、翌日の個人戦で判定負け、そして、高校最後のインターハイ予選の団体戦決勝では「体落」で有効をとられて負けました。高校時代は、ライバル校の選手と話をすることは1度もありませんでしたが、大人になってから彼と再会し、当時のことを笑顔で話せた時は、すごく嬉しかったです。
『帯ギュ』、そしてライバル選手のお陰で、谷落という得意技をつくることができました。作者の河合克敏先生、ライバルだった彼に心から感謝しています。
私の得意技「まとめ&反省会」につづく
※「note」より転載
https://note.com/shojukan/n/na65ff8561c73