おしらせ

2021-01-27 16:53:00

咲柔館コラム46 白鳥の水かき~水面下を想像する力~

 

 我以外皆我師(われいがいみなわがし)。これは、作家の吉川英治さんの言葉です。「全ての人から学ぶ姿勢」を持つことで、多くの気づきや学びを得られます。常にこのような謙虚さを持ちたいものですね。

 私は、人に教える中で気づかされたことが沢山あります。咲柔館の塾生様たち、教員時代の教え子たちから学んだことは数えきれません。今日は、ある教え子から学んだことをご紹介したいと思います。

 

 

 

 その生徒は、全日本ジュニア強化選手に選ばれるほどの実力者でした。普段はおとなしい性格なのですが、試合中は一変し、闘志にあふれます。技の一つひとつは美しく、ダイナミックで、繊細かつ大胆な試合運びに、近くで観ている私も興奮と感動を覚えました。そんな彼女の乱取り(実戦練習)は、まるで「投げ込み」です。相手が誰であっても一瞬の虚をつき、一気に投げきります。学校内の稽古では、「敵なし」という感じでした。

 

 

 

 卒業式が間近に迫ったある日の稽古後、彼女とこんな話をしました。

 「ここまで誰でも簡単に投げれると、学校の稽古は楽だったかもしれないね。」もっと稽古メニューを工夫したり、出稽古に連れて行ってあげればよかった、という反省からの発言でした。しかし、彼女が言った一言に、私は、はっとさせられたのです。

 「3年間で楽だった稽古は1日もありません。」

 

 

 

 彼女は「稽古の虫」でした。出稽古では、1番強い人に1本目からお願いをする。大学進学が決まってからは、苦手なランニングトレーニングにも力を入れる。遠征中も一流アスリートが書いた本を読む。そして、何より普段の稽古では、徹底的に自分を追い込む。「より良い技で投げる」「より多く投げる」という課題を自らに課し、常に自分自身と戦っていたのだと思います。そんな彼女の稽古が、楽なはずありません。このような姿勢で3年間柔道と向き合い続けたからこそ、中学校時代目立った実績がなくても、胸に日の丸をつけられたのでしょう。

 「白鳥の水かき」(鴨の水かき)という言葉があります。華麗に泳いでいる水鳥が、水面下では激しく水をかいているように、簡単に目標を達成したように見える人も、実は裏で地味な努力を、誰も真似ができないくらい積み重ねているものです。彼女に軽率なことを言ってしまった当時の自分を恥ずかしく思います。普段の様子をもっとよく観ること、人知れずコツコツと続けてきた過程を想像することの大切さを彼女から教えてもらいました。

 

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 咲柔館の塾生様を拝見していると「柔軟性が増したなあ」「受身がうまくなったなあ」と驚くことがあります(子どもクラス・大人クラス共にです)。そのような方にお話を聴いてみると、普段の稽古にプラスして、お風呂上がりにストレッチをしたり、自宅で受身の練習を行ったりと、「陰の努力」をされていることが多いです。本当に頭が下がります。

 これからも「成功、成長の陰には、地道な積み重ねがある」ということをしっかりと心にとどめ、日々の稽古や道場運営に向き合ってきます。水鳥のように涼しげな表情で泳げるかは分かりませんが、とにかく一所懸命水をかいて、前に進んでいきます。

 

 

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※「note」より転載
https://note.com/shojukan/n/nb113e9507ddb